海のそばに住む——5つのまちを「制度」で比べる

旅先で海を見るたびに「ここに住めたらなあ」と思う。その気持ちを本気で検討に変えるとき、最初に効いてくるのはお金と住まいの条件です。タイプの違う5つのまちを、2026年度時点で実際に使える制度で並べました。

まち 移住支援金(東京圏から) まちの独自支援 向いている人
香川県三豊市 世帯100万円/単身60万円+子1人30万円 空き家バンク物件のリフォーム補助 瀬戸内で穏やかに暮らしたい
鹿児島県奄美市 県の制度あり(要件は要確認) 住宅購入費の1/2・最大100万円 本気で南の島に住む
島根県海士町 県の制度あり 大人の島留学(家賃・光熱費ゼロ、20代限定) いきなり移住が怖い
千葉県館山市 世帯100万円/単身60万円+子育て加算 転入子育て世帯への家賃助成 東京の仕事を手放さない
北海道雄武町 対象(道の制度) 宅地を無償譲渡+住宅補助200万円 支援の大きさで選ぶ

先に結論を言うと、「海が好き」だけで選ぶと後悔します。 5つは支援の性質がまったく違い、向いている人も別です。以下、それぞれの中身と注意点を書きます。

1. 香川県三豊市(瀬戸内海):入門編としていちばん無理がない

「日本のウユニ塩湖」と呼ばれる父母ヶ浜(ちちぶがはま)のあるまち。瀬戸内は波が穏やかで、台風の直撃も太平洋側より少なく、海のそば暮らしの入門編にちょうどいい土地です。移住者がカフェや宿を始める動きが活発で、コミュニティに入りやすいのも特徴です。

使える制度(2026年度)

  • 東京圏UJIターン移住支援金:2人以上の世帯100万円/単身60万円
  • 18歳未満の子ども1人につき30万円を加算
  • 受付:2026年4月1日〜2027年2月26日
  • 子ども医療費助成:18歳到達年度の末まで(2023年4月に拡充)

ここで1つ注意があります。子どもの加算は30万円で、よく見る「子ども1人100万円」ではありません。 加算額は都道府県ごとに違い、香川県はこの水準です。「国の制度だから100万円」と思い込んで資金計画を立てると差が出ます。

なお医療費助成について、市の案内と古い制度ページで窓口無料か後から返ってくる方式かの記載が食い違っています。実際の支払い方は市の健康課に確認してください。

2. 鹿児島県奄美市(奄美大島):住宅購入に最大100万円、ただし枠がある

世界自然遺産の島。エメラルドの海と原生林が日常になります。東京・大阪からLCCの直行便があり、離島の中ではアクセスは良いほうです。

使える制度

  • 移住定住住宅購入助成:購入額の2分の1・最大100万円(基本50万円+市内の高校生以下の子ども1人20万円/2人以上30万円)
  • 条件:奄美群島外からの転入で、転入予定日から過去2年間、奄美群島内に住所がないこと
  • 予算額に達し次第、受付終了

ここが重要です。 住宅リフォーム補助(市民向け)は2026年度、1次募集・2次募集ともに予算に達して受付が終了しています。移住者向けの購入助成も予算枠の制度なので、「今年度はもう無い」ということが起こります。動く前に残額を電話で確認してください。

住む現実としては、台風の通り道であること、物価が本土よりやや高い「島価格」であることは知っておくべきです。

3. 島根県海士町(隠岐諸島):試してから決められる、ただし20代限定

人口約2,300人。移住促進の成功例として全国的に知られる島です。最大の特徴は、いきなり移住しなくていい仕組みがあること。

大人の島留学

  • 滞在中の家賃・水道光熱費は自己負担なし、E-bike1台貸与
  • 期間は3か月コースと1年コース
  • 生活支援金:3か月コースで月99,000円〜132,000円、1年コースで月187,000円(募集回により変動)
  • 対象は20〜29歳程度

「離島に興味はあるけれど、いきなり移住は怖い」という人の最有力候補です。ただし20代限定という制約があるので、30代以上の方はこの制度は使えません。募集は期ごとで、締め切られている回もあります。

4. 千葉県館山市(太平洋):東京を手放さずに海へ

房総半島の南端。冬でも温暖で、サーフィンと釣りの聖地です。東京へ高速バスで約2時間なので、仕事や人間関係を残したまま海暮らしに移れます。まず週末だけの二拠点から始める人も多いエリアです。

使える制度(2026年度)

  • UIJターン移住支援金:世帯100万円/単身60万円+子育て加算あり。申請期限は2027年2月26日
  • 移住定住促進助成金(転入子育て世帯への家賃助成):市の掲載は2025年度分までで、2026年度の継続は未確認

家賃助成を当てにして計画するのは危険です。市の地域づくり課に、今年度の有無と条件を先に聞いてください。

5. 北海道雄武町(オホーツク海):土地がもらえる。ただし残り1区画

移住者に宅地を無償で譲渡するという、かなり思い切った支援をしているまちです。

宅地の無償譲渡

  • 対象:雄武町への移住希望者(申込書提出の1年以内に町内に居住していた人は対象外)
  • 住宅要件:契約締結日の翌年12月31日までに床面積60㎡以上の専用住宅を建てて住民登録すること
  • 譲渡後10年間は転居・第三者への貸付や譲渡が禁止(違反すると1㎡あたり3,000円の違約金)
  • 登録免許税などの費用と確定申告は本人負担

そして現時点で、募集中の区画は5件中1件だけです(雄武町字雄武1055番5、約321㎡)。残り4区画は譲渡済みです。「土地がもらえるまち」として紹介されることが多いのですが、いつでも誰でももらえるわけではありません。

住宅の補助としては、快適住まいづくり支援制度があります。新築・増築・改築は対象床面積1㎡あたり1万5千円(上限200万円)、中古住宅の購入は1㎡あたり7,500円(上限100万円)。新築などの場合は10年以上の居住が条件です。

オホーツクの海は「泳ぐ海」ではなく「眺めて、食べる海」です(毛ガニ・ホタテ)。流氷の見える暮らしにロマンを感じるかどうかが、ここを選べるかの分かれ目になります。

海のそば暮らし・共通の注意点

  • 塩害:潮風で車・自転車・エアコンの室外機がサビやすくなります。海まで徒歩圏の物件ほど影響が大きいです
  • 災害リスク:台風・高波・津波のハザードマップ確認は必須。「海が見える高台」が現実的な答えになることもあります
  • 湿気:洗濯物とカビ対策は海辺の日常です

そして制度面での共通の注意が1つ。この記事で紹介した支援の多くは予算枠の制度で、年度の途中で終わります。 実際、奄美市のリフォーム補助は2026年度分がすでに終了し、雄武町の宅地も残り1区画です。気になるまちが見つかったら、情報を集める前にまず窓口へ電話して「今年度はまだ使えますか」と聞くのが、いちばん確実で速い方法です。

できれば一度は、観光シーズンではない平日の普通の日に現地を訪れてみてください。

海沿いのまちは離島や半島の先など「本州の主要ルートから外れた場所」が多く、引越し料金が内陸より高くなりがちです(フェリー代や長距離料金が乗るため)。行き先が絞れた段階で複数社の見積もりを比べておくと、予算の見当がつきます。

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